必要な資金は、バルス株主の三菱商事や高島社長を実質的な割当先とする45億円を限度にした第三者割当増資に加え、金融機関から上限125億円の借り入れも行う。
売上高350億円程度のバルスの収益を原資にした返済負担は重い。「返済不可能な水準ではないが、この規模の借り入れを行うことはリスクを伴う決断だ」と、ドイツ証券の風早隆弘シニアアナリストは指摘する。
バルスはMBOの狙いについて表向きは、「海外展開加速など構造改革による利益水準やキャッシュフローの悪化が、既存株主に悪影響を与えるおそれがあるため」とする。2010年12月に2年ぶりに既存店の月次売上高が前年同月を上回り、12年1月期は3期ぶりの増収増益を計画していたが、矢先に東日本大震災が襲った。
「下方修正を余儀なくされ、大幅な改革なくして、過去最高益への復元は困難になった」(同社)。
だが、震災後の同社の業績は、意外にも好調だ。家族客の近場消費の増加などにより、4~7月の既存店売上高は前年を上回っている。国内の不採算店閉鎖はほぼ一巡しており、仮に海外出店を増やしたとしても、急激な収益悪化は考えにくい。
「さよなら日本、さよなら東証。将来は香港、シンガポールでの上場を目指す」
高島社長はMBOの真の狙いをこう語る。香港は法人税が日本の約3分の1と低く、商談成立も格段に早い。「上場すれば、時価総額は東証の3倍が見込める。今回は見送ったが、三菱商事は決定に3カ月近くかかった増資引き受けも、香港財閥は『明日でも』と約束してくれた」(高島社長)。
その反面、「東証ではPBR(株価純資産倍率)が平均1倍割れで、資金調達もやりにくかった」と高島社長は不満を漏らす。すでに社長自身、昨年秋に香港に移り住んだ。
日本を見限ったバルスの次なる一手が耳目を集める。
(二階堂遼馬 =週刊東洋経済2011年9月24日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。”
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