久米宏と池上彰が、一視聴者として見た地震報道
池上:それともうひとつ、今回の報道を見ていてですね、一視聴者として見てた部分があるんですが、そうすると非常にもどかしいんですね。 つまり、専門家の方が、専門用語を言いますね。ところが、それを伝えているニュースのアナウンサーやキャスターが、今のことはどういうことか、ということをわからない。本当はそこで、非常に素朴に「それなんですか?」って聞いてくれればいいんだけど、プライドが許さないのか、何を聞いていいのかわからないのか はわからないですが、聞かないんですね。その結果、専門家の話がそのまんま出て、何事もなかったように次へ行く。結果的に見ている人が「今の話、なんだっ たの?」→「わけわからない」。これが心配しないといけないことなのか、安心できる話なのかわからないまま次へ行く、わからないから不安になっていく、と いうことが積み重なってきたな、って思うんですよ。
久米:テレビ見てる人はいろんなことを感じちゃったりするもんで、例えば、東電という企業があまりに巨大なもんですから、もしかしたら東電に 関して政府もちょっときづかいをしすぎているのではあるまいか、あるいは、東電が昔(江戸時代)の前田家のように巨大な藩で、何十万石か知りませんけど、 あまりに巨大な王国なもんですから、東電自体が、自分たちの意識が「東電王国の住人」であって、よそさまからは口出しできないような状況の企業なのか、 で、科学者は東電のお世話になっていて、研究費ももらっているだろうし、原子炉の人たちは政府から援助金ももらっているから、かなり遠慮してしゃべってい るんじゃないだろうか、もしかしたら、NHK自体も、政府に遠慮した報道をしようと思っているんじゃなかろうか、ってことまで考えて、テレビを見ていると 思うんです、国民は。
池上:そうだとおもいます。
久米:そのへんは池上さんはどう思います。
池上:まずNHKの話で言えば、そういうきづかいは一切ないですね。これは断言できます。で、今あそこで解説しているのが、私の後輩ですから よく知ってますけれども、数日前は東京電力の発表があまりに酷いと放送中に怒ってましたね。人間的な反応を見せてましたが、基本的に、事実を淡々と伝え る。判断するのは視聴者だよ、というのがあり、とにかく、過度の不安を煽りたてるようなことはしないでおこうと。不安をあおり立てると視聴率は上がるんで すが、そういうことをしてはいけないよ、ということでやっているんです。やっているが故に、淡々とやるもんですから、見ている側が欲求不満が出てくるわけ ですよ。「これは何かを隠しているんじゃないか?」と思ってしまう。隠しているなんてことはまったくないし、でてきたものは全部伝えているんですが、とに かく落ち着いて淡々と伝えようとやることによって、視聴者が不満を持つのがあるのかな、というのはあります。ただ、その一方で、東京電力という組織自体は 巨大な組織ですし、日本の場合は「九電力体制」と言って、北海道は北海道電力、東北は東北電力、というカタチで、いくつもの電力会社を分けてたのはいいん ですけど、ひとつの地域は「地域独占」ですよね。ライバルはいないんですね。その結果、お客様のために、という発想がどっか行っちゃうんですね。ライバル がいると随分変わります。例えばいい例は、かつての電電公社です。電電公社は電話、電報を1社で独占してましたから、殿様商法でした。それが民間になり、 様々なauとか、ソフトバンクとか、ライバル会社が出てきた途端に、みるみる便利になっていったんですね。そういう仕組みがないと、本当に殿様商法で、 「下々のものは聞いておればいいんだ」という体質が残っているなと思いますね。
久米:えー・・・45分までお時間があるそうなので、お茶でも飲んでいってください。
池上:ありがとうございます。
”- 久米宏と池上彰の「ニュースなんですけど」 - 虚馬ダイアリー (via peperon999)