戦後最大の災害となった東日本大震災。死者は1万1000人を超え、行方不明者は1万7000人に達した。原子力発電所の事故という巨大な危機はなお続く。苦境を脱し、今と未来を立て直すため、なすべきことが山ほどある――。
民主党はマニフェスト(政権公約)の呪縛を解く時だ。政権交代の余韻を断ち切り、震災復興に向けて、政策の優先順位を見直す必要がある。
2011年度予算案は29日に成立する。しかし与野党の対立で、赤字国債発行法案などの成立のめどが立たない異常な事態に陥っている。
今後の補正予算編成で野党の協力を得るためにも、政権公約の大幅な修正は避けて通れない。自民党などが「ばらまき」と批判する子ども手当、高速道路無料化、高校授業料無償化、戸別所得補償の「4K予算」の見直し・凍結案を早急にまとめるべきだ。
■野党の力不可欠
それを受けて自民党など野党側は、まず赤字国債発行法案の成立に協力する。法案がたなざらしにされ、40兆円近い赤字国債の発行のめどが立たなければ、予算の執行に支障が出かねない。その不安を取り除くところから、与野党協調の第一歩を踏み出す――。
来年度は数次にわたる補正予算の編成が想定される。復興支援の具体策とともに、巨額の財源調達方法も詰めなければならない。有力閣僚の一人は「主要政党の合意がなければ補正予算は組めない。とりわけ自民党の経験と知恵を生かすことが大事だ」と強調する。
補正予算の共同作業を通じて信頼関係を築き、機能不全の政治を立て直すしかなかろう。
菅直人首相が自民党の谷垣禎一総裁に呼びかけた入閣要請は即座に拒否され、大連立構想は頓挫した形だ。提案が唐突で根回し不足だったのは確 かである。ただ首相周辺は「首相は自らの延命ではなく、政治の力を総結集して救国内閣をつくりたいという気持ちだった。思いが伝わっていないので、もう一 回呼びかけたらいい」と語る。
大連立構想は今後も通奏低音として、政界に流れ続けるだろう。大震災で衆院解散・総選挙が遠のいた現実を踏まえれば、自民党も早期解散を求める戦術の転換を余儀なくされる。
補正だけではなく、12年度予算編成でも与野党の協力は不可欠だ。そのためには、どのような政権が最善なのか。民主党も自民党も国益の観点から判断しなければ、有権者の厳しい批判を浴びるに違いない。
■官との関係修復
民主党政権で弱まった政官関係の再構築も急務だ。霞が関の官僚機構には「役所をうまく使うのが政治主導。がなりたてて、しかることは政治主導でも何でもない」との不信感がくすぶる。
仙谷由人官房副長官が被災者支援のために各省の事務次官を集めて会議を招集するなど、遅まきながら事態改善の動きが出てきた。阪神大震災の 復興対策に関わった古川貞二郎元官房副長官は「首相官邸に民間人などの多くの人を集めているが、危機のときは少数精鋭の方がいい。官邸と各省との意思疎通 が重要なのに、これまでは穴があいていた」と指摘する。
谷垣氏が断った震災復興担当相を速やかに任命し、官僚機構を総動員する体制整備が要る。
戦後日本が経験したことのない国難に直面し、政治も行政も試行錯誤の危機管理が続くが、全国津々浦々ではかつてない連帯感が生まれた。ボランティアや寄付への高い関心も心強い限りだ。
消費の回復と被災地への寄付を長く続ける狙いで、商品に寄付シールを貼り、その売り上げの一部を被災地に回すプロジェクトなど、民間でも様々な支援の取り組みが始まっている。
大震災を境に、日本は新しい時代に入ったという認識が必要だろう。原子力発電所の新規建設が困難になるなかで、エネルギー政策だけでも抜本的な変革を迫られる。
長期間にわたり、東日本復興と日本再生に、政官民が総力をあげて取り組まねばならない。そして「震災後」の新たな国造りの目標を掲げることこそ、政治が果たすべき歴史的な責務である。
- いま何をすべきか 政官民の総力結集を :日本経済新聞 (via darylfranz)