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" 地震直後、TDRは建物の安全を確認するために、ゲストとキャストの全員をいったん建物の外に誘導した。電車はすべて止まり、陸の孤島に7万人が取り残された状態だ。余震の続く中、ゲストは不安そうに園内に固まっ..."

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 地震直後、TDRは建物の安全を確認するために、ゲストとキャストの全員をいったん建物の外に誘導した。電車はすべて止まり、陸の孤島に7万人が取り残された状態だ。余震の続く中、ゲストは不安そうに園内に固まっている。

 アルバイト歴5年のキャストHさんは、当日のことを思い出す。「(店舗で販売用に置いていたぬいぐるみの)ダッフィーを持ち出して、お客様に“こ れで頭を守ってください”と言ってお渡ししました」。彼女は会社から、お客様の安全確保のためには、園内の使えるものは何でも使ってよいと聞いていた。そ こで、ぬいぐるみを防災ずきん代わりにしようと考えたという。

 同じくキャストのIさんは、店舗で販売していたクッキーやチョコレートを無料で配り始めた。「必ずみなさんにお配りしますから、その場でお立ちに ならないでお待ちください」と声を掛けながら。「お客様から配ってくださいと言われたわけではなくて、時間もたって私もお腹が減ってきていたし、ゲストの みなさんはもっとお腹が減っているだろうと思ったので」。

 ぬいぐるみが並んでいた壁も、お菓子が並んでいた棚も、売店内の商品はすっかりなくなっていた。

 当日は雨交じりで気温は10度と冷え込んでいた。あるキャストは、お土産用のビニール袋や青いゴミ袋、そして段ボールまで引っ張り出してきて「こ れをかぶって寒さをしのいでください」と訴えた。段ボールは普段なら『夢の王国』にあってはならないものだ。それでもゲストの身の安全を確保するためなら 何でもしようと考えて行動した。家族で来園していたゲストは、「3月にしてはかなり寒かったので本当に助かりました」と答えていた。

 またキャストのTさんは、じっと座り込んだままの状態が続いているゲストに話しかけた。「ずっと同じ姿勢のままだと体に良くないので、少し運動しましょうか」。

 当座の安全を確保できたら、彼らは礼儀正しさやショーの実践を忘れていなかった。キャストのMさんはゲストの気を紛らせようと、お土産袋を掲げて 「みなさん、この絵の中に“隠れミッキー”(ミッキーマウスの形)があるのをご存じでしたか。よろしければ一緒に探してみてください」と投げかけた。

 大きなシャンデリアの近くで余震の恐怖におびえている子供たちにはKさんが、「みなさん大丈夫です。僕はシャンデリアの妖精ですから、何があってもみなさんを守ります。大丈夫です」と笑顔を見せた。

 TDRにもマニュアルはあるが、現場の状況もゲストのニーズも刻々と変化する。ましてや事は震災だ。マニュアルですべてをカバーすることなど不可能だし、マニュアルから似たケースをチョイスしてもそれが適切とは限らない。だからこそ行動規準が必要なのだ。

 今となれば、場面場面では、もっとより良い判断や行動があったのかもしれない。けれどもTDRでは、「会社として大切にするべきことと優先順位」にさえ沿っていれば、現場の一人ひとりに判断を任せている。

 読者のみなさんの中には、「お客様の安全にかかわるような重要な判断をアルバイトにさせるなんて、恐ろしくてできない」という人もいらっしゃるだろう。アルバイトか正社員かはさておき、現場には入社したての新人だっている。それはTDRも同じだ。怖いに決まっている。

 ではどうするのか。判断させず、いちいち上からの指示を待てと命令するのか。

 TDRはアルバイトだけでなく、自社の従業員ではない派遣社員にさえも十分な研修を受けさせ、OJTでの訓練も欠かさない。現場で判断できるに十分な準備や、万が一にも対応できるチーム体制を用意したうえで、判断させる。

 現場はチームで動いているので、もしも個人の判断が明らかに間違っていれば、隣にいる仲間や先輩が修正してくれる。判断が不安なら、その時は、先輩や上司に相談すればいい。彼らは「もっとこうした方が良くなるんじゃないか」といったアドバイスをくれる。

 そしてもう一つ大切なことがある。行動規準に沿った判断、行動である限り、上からしかられることはない。むしろゲストのためになることであれば褒めてもらえる。だからこそ、新人であっても積極的に自分で考えることができるのだ。

 逆に、普段から「勝手に判断するな、上司の承認を取れ」と言われていたり、「この程度の発想か、もっと頭を使え」としかられていたらどうだろう。 あるいは頑張っても褒めてももらえなかったらどうだろう。しかられると思えば萎縮してしまうだろうし、褒められるとうれしくなって頑張ってしまう。何も特 別な話ではない、人間誰しも働くうえではそういうものではないだろうか。



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