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Channel: Shiitake's tumblr.
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"下を向いていると、突然、マダムが私の腕に手を置き、申し訳なさそうに「ごめんなさいね」と謝った。 なぜ謝るのか、最初はわからなかった。 でも、すぐに気がついた。 マダムは、フランス語ができない私がふたりの..."

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下を向いていると、突然、マダムが私の腕に手を置き、申し訳なさそうに「ごめんなさいね」と謝った。
なぜ謝るのか、最初はわからなかった。
でも、すぐに気がついた。
マダムは、フランス語ができない私がふたりの会話についていけず、寂しい思いをしていると誤解したのだ。
彼女は、私たちにとってこれがまだ何も終わっていない問題だということが、まるでわかっていない。
私が悲しみのあまり、その会話から自ら離脱したことにも気づいていない。
ランチの話題にできるほど、少なくとも私には軽いことじゃないということが、想像できないのだ。

Sさんが「大丈夫?」と私に声をかけた。
Sさんは日本人だけどずっとフランスに住んでいて今回の地震を経験していない。
きっと彼は、震災以降、こんな風に何人ものフランス人に話しかけられたに違いない。
そして、一方的な疑問や励ましを押し付けられてきたのだと思う。
だから、こんな場に出くわすことにも、ある意味慣れているように見えた。
けれど、その反面、3月11日に地震を経験した人間が、こういう場に出くわし、
戸惑う様を目にするのは初めてだったのではなかろうか。

グリーンのクロスが敷かれたテーブルの上で、彼が私の指を握ってくれた。
そして、マダムに「彼女は東京にいて地震を経験している。話題を変えて欲しい」と頼んだ。
すると、マダムは驚いて私を見た。
「彼女は(話の内容が)わかっているの?」
私は理解できていた。
私のフランス語の能力でもわかる程度の、浅い、本当に浅い、
同情の範囲を超えることのない言葉の羅列だったから。
それが、複雑な状況を踏まえた複雑な会話だったら、私はどんなに救われたことだろう。
私のフランス語では理解できないぐらい複雑な会話だったら。



- CHISAI HASEBE -BLOG-|honeyee.com Web Magazine (via otsune)

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