ずっしりとした重い扉の向こう側に広がるのは、フレスコ画に彩られた天井、大理石のアプローチ、早くも16世紀から使用された薬局製造器具…。栄光の歴史をそのままに伝える逸品の数々。フィレンツェの街並みに静かに佇むサンタ・マリア・ノヴェッラ。当時は薬局内部に製造所があり、そのすべてがフィレンツェの歴史そのものであり、あたかも美術館と思わせるほどの貴重な品々が今も訪れる人を待ち受けています。
現在の販売ホールは元々、修道院内部の教会として使われていたスペースで14世紀に聖ニコラスをたたえて建築されたもの。その後1848年の大改修でも天井のゴシック様式は大切にされ、パオリノ・サルティ(Paolino Sarti)によるフレスコ画は薬局の栄光をたたえるものとなっています。内部にはクルミ材でできた棚、ネオゴシック様式で飾られたカウンターなどがあり19世紀建築美術のミュージアムといってもよいでしょう。
旧薬局部分は1600年代から1848年まで販売室として使われていたスペース。豪華な内装を施された室内には、サンタ・マリア・ノヴェッラの歴史と栄光の足跡が残されています。ガラス戸付きのショーケースの中には、1718年カストーレ・ドゥランテ(Castore Durante)によって著された「薬草図鑑(Herbario)」、世界から集まる王侯貴族、著名人たちのサインブック、さらに処方や薬の製法などが詳細に記された「フィレンツェの製法書(Ricettario Fiorentino)の第6版」は1498年に初版がなされた公式書物です。また現在も作り続けられている、アルバレッロと呼ばれる薬局の古典的な陶器の壷は軟膏、エッセンスなどを保管するために使われたものです。他にもリチャード・ジノリ社から提供された19世紀の陶器、初期には薬の調合に使われた乳鉢、蒸留器、てんびん、ビーカーなど当時の薬局を偲ばせる数多くの歴史的な品々が収められています。店内の至る所にはドミニコ修道会の紋章が飾られ、今もその癒しの思想がうけつがれていることを示します。