【レビュー・書評】震災時 帰宅支援マップ 首都圏版 [編]昭文社 - 売れてる本 - BOOK:asahi.com(朝日新聞社)
■町歩きの新しい視点を提示
ここ数年、東京散歩に注目が集まる。テレビでは「ちい散歩」や「ブラタモリ」が人気。書籍の『江戸の古地図で東京を歩く本』では、歴史の痕跡を訪ねる東京散策が、中沢新一『アースダイバー』では縄文時代の東京を偲(しの)ぶ町歩きが提唱された。どれも、新たな視点を提示し、東京のまだ見ぬ魅力を引き出すという共通点を持つ。
3月11日の大地震は、思いがけない東京散歩を、多くの首都圏生活者に強いるものでもあった。鉄道は停止し、都心の幹線道路は渋滞によって麻痺(まひ)。大量の帰宅難民を生み出したのだ。
『震災時帰宅支援マップ 首都圏版』の発売は6年前。累計50万部超のヒットとなり、先月の地震を機に再び売れている。
本地図は、震災時の混雑可能性や危険地域情報のほか、コンビニやガソリンスタンド、帰宅支援ステーションとなる店舗の情報や休憩場所、さらには地形の高低差に関する情報など、震災時の徒歩帰宅者に特化した情報が加えられたものだ。目的こそ散歩ではないが、間違いなく町歩きの新しい視点を提示し、東京のこれまで見えなかった側面を照らすものである。
筆者も帰宅難民として東京を歩いた一人。東京がまるで違って見えた。鉄道の路線図として知る街の配置と、実際の街の距離感はまったく一致しない。自動車移動のスピード感で作られた案内図は、徒歩移動者には役に立たない。また、当たり前の都市の風景であるコンビニ、チェーン店のカフェや居酒屋が営業していることに、これだけ感謝したこともなかった。
大震災後、この地図は“転ばぬ先の杖”から現実的な実用書に変わった。売れているのも、東京にいつか本番の地震が来ると信じる人が多いからこそ。
今だからこそ、東京散歩に出かけるべし。本地図を片手に。
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累計100万部、最新版は3刷15万部